「PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞」 感想
08 16, 2008 | 美少女ゲーム感想
2 Comments
| ■■■■■■■■ | B+ 《秀作》 | ||
| ■■■■■■■ | |||
| ■ | |||
| ■■■■■■■■■■ | |||
| ■■■■■■■■■ | |||
| ■■■■■■■■ |
Innocent Greyより2006年9月29日に発売された「PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞」です。
原画家・杉菜水姫氏を構えたInnocent Greyの2作目の作品です。自らを「スタイリッシュミステリィAVG」と名乗った今作は、確かに雰囲気だけは粋な感じでした。こういうアダルトなムードを概念的に描いた作品は珍しいというか、現実的な域を脱さずにかつロマンティックな趣の感じられる独特な世界観を感じることができる貴重な作品だと思います。
物語は、オープニングムービーに入るまでの展開は秀逸なものだったと思います。昭和の東京を舞台にした「連続狂人殺傷事件」に巻き込まれ、やっかいにも被疑者扱いされるスタイリッシュ(笑)なピアノ弾きの主人公・玖藤奏介。そして奏介の周りの美少女たちが、奏介の無実を晴らすために探偵もどきとなっていろいろと推理していきます。しかし、その最中に奏介と結ばれたある女性が、奏介に殺されたとしか思えない状況で殺害されてしまうのです。さて、一連の事件を含めた犯人は本当に奏介なのでしょうか──。
ここまで見ると、一見本格的なミステリー作品を思わせるような導入部分ですよね。プレイした誰もが期待を寄せたことでしょう。しかし、この事件には以外な設定が裏に存在していて、それがミステリー部分の面白みを崩してしまっています。つまり、この作品にミステリーを期待しすぎてはいけないということですね。しかしそれを除けば、物語自体は終始面白みがあって、なかなか楽しませてくれるものだったと思います。純粋に、このキャラクター(登場人物)たちがいる物語を楽しみたいのであれば十分に期待に答えてくれることでしょう。
グラフィックに関しては、人の好みにもよるかもしれませんが、業界の最高水準近くまで達しているような気がします。キャラクター造形、原画、彩色、背景、演出効果などなど…。塗りに関しては、前作「カルタグラ」で担当していたsimo氏が会社を移られてしまって一部のファンの方々が今作の塗りを叩いていた頃が一時期ありましたが、今作でsimo氏のあとを継いでグラフィック統括を担当した珈琲貴族氏も十分ハイレベルな仕事をされる方だと思います。今後も珈琲貴族氏にはInnocet Greyでまだまだ頑張って欲しいですね。
※ここから下はネタバレ注意
プレイされた方なら分かる、この作品の最大の問題因子である「リフ=ラフ」です。この久遠が発明した人を狂わせる道具が、ミステリーを根幹から崩してしまったのですね。実際に久遠は綾音との会話の中で、
「催眠術を使われた可能性は極めて低い」
「いくら暗示をかけたからといえ、殺人を犯させることはほぼ不可能です」
などと言ってしまっているので、言葉は違えど嘘を提示してはいけないというミステリーの最低限のルールを守れていないこの物語は既にミステリーとしては成立していないと思われます。後者に限っては断定してしまっているので、言い訳の余地はないですよね。リフ=ラフだって一方的に人を狂わせている時点で催眠術や暗示と何ら変わらないわけですし。
まぁしかし、リフ=ラフという道具を使いながらも、物語全体を通すとなかなか上手くまとめられているなとは思いました。中でも、奏介と結ばれたその当夜に殺された綾音と、その後に奏介と結ばれる美華夏の三角関係上に浮遊するすっきりとしない感情は良い意味で残滓感が残るような感じでした(美華夏エンド)。つまり、要因はどうであれ愛する者によって殺された綾音と、愛する者を殺してしまった奏介。その奏介に昔から恋心を抱いていてかつ綾音とも仲が良かった美華夏と、そんな美華夏を最終的に愛することになる奏介。そして奏介に殺された上にその奏介を美華夏に取られた綾音と、奏介に綾音の墓参りに行こうと誘う美華夏。この3人を巡る感情のやり取りも、想像してみると案外深みに嵌っていくような感覚が味わえるんじゃないかと思います。異性関係上(特に恋人関係)に人の死がどのような感情の変化をもたらすのか。その上で生者が死者に付与する感情とはなにか。それは果たして真情か、それとも偽りか。そして、それは強がりから来る弱さではないのか。そんなことを考えてみると、まだまだ妄想する余地はありそうです。
また、意味深すぎる綾音エンドを見ても物語の魅せかたが上手いことが分かりますね。誰もが関心を寄せる綾音エンド。あの夢オチを思わせるような物語は、一体なんだったのでしょうか。私的には、「CONDUCTOR」の最後のシーンで久遠がどこかの港から東京の方を仰ぎ見ながら言った言葉が頭から離れないんですよね。以下引用。
彼に伝えていないことがある。結局言えなかった、最後の真実。
「全ての真実を明かしても、彼は私の事を赦してくれるでしょうか──」
貴方の大切な人を死に至らしめた私を。貴方は赦してくれますか──? 願わくば、あの人が居る世界の夢を、貴方が観られますように──
可能性としてはほぼゼロに近い考察ですが、綾音を実際にその手で殺害したのは、実は奏介じゃなくて久遠なのではないかと思うのです。上の引用の文の「貴方の大切な人を死に至らしめた私を」という文。プレイした方なら分ると思いますが、ここで久遠が言っている「死に至らしめた私」は、実際に手を掛けたという意味ではなく、その殺害の元となった「リフ=ラフ」を開発してしまったという意味です。しかし、この文章に限って、これはミスリードなのではないか、という疑問が浮かんできました。
そもそも、リフ=ラフは奏介のピアノの旋律が組み込まれているため、奏介には効きが悪いはずです。この日、綾音の横で眠りに着いた奏介が葵によってリフ=ラフを使われても、綾音を殺害するほどまでに狂人化させることが出来なかったんじゃないかと思うのです。そこで、葵は奏介を標的にするのではなく、効き目が期待される久遠に向けてリフ=ラフを放ったのではないでしょうか。しかも、この時一時的にではあれど葵と久遠は結託しているとも思われます。久遠は、奏介を自分の操り人形にしたいがために、奏介にリフ=ラフを放ち芸妓殺害の罪を被せ精神的に追い込もうとしました。久遠はここで葵と結託するふりをして、自らが綾音を殺害し、あたかも奏介が殺したかのように見せかけ、奏介に最終的な追い討ちを掛けたのではないかと思われます。つまり、久遠が最後まで隠し続けた最後の真実とは、綾音に実際に手を掛けて殺害したのは奏介ではなく、久遠自身であったことなのではないかと思うのです。だから、久遠の言った「貴方の大切な人を死に至らしめた私を。貴方は赦してくれますか──?」という台詞は、リフ=ラフ開発者としてではなく、そのままの意味で、奏介の大切な綾音をこの手で死に至らしめた久遠として発せられた言葉なのではないかと感じました。
なので、綾音ルートに関しても、純粋な夢オチではなく、久遠が綾音を殺すことがなかった空想的な世界の儚き物語なのではないかなぁと勝手に妄想したりもするのです。

